2024年4月9日火曜日

No.164_真に美味しいものの風味は繊細


この道(自家焙煎豆屋)へ進もうと思い始めた頃から、そして今も、和洋食問わず料理人の方が著した本や、宮大工、陶芸家等職人道を貫いている方、また、果てしなき高みを目指しているアスリートの方が著した本などを好んで読んでいます。正直、コーヒーとは!とか、焙煎とは!とかのテーマの本よりは、余程色々な示唆を頂きます。(苦笑)

そんな中の一つ、三國清三さんが2003年に著した『料理の哲学 5人の神様から学んだ三ツ星のエスプリ』の中に素材に関わる話題があり、とりわけ天然素材と養殖素材に関わる記述はとても興味を覚えました。

『天然ほど貧しいものはないのだ。』(中略)『海から揚げられた瞬間に生簀 (いけす)にいようとも、あの魚はもう生きてはいない。人に取られたら、生命は断ち切られている。(中略)魚でも野禽 (やきん)でも野生であればまずまともな餌を食えない。天然とは過酷な環境に生きていると言うことなので、とにかく自分で探さないことには餌がない。そういう環境に育っているからこそ、独特のうま味があるのだが、天然ものとは大体脂身が少なく、硬く、非常に微妙な味のものだ。その微妙な味は、小さい頃から、天然の素材を食べて育った人間や味覚が鍛えられている人にはわかる。(中略)今は天然ものの方が圧倒的に少ないので、その本質的な味をわかる人が非常に少なくなっている。だからこそ、われわれは味覚を鍛えなきゃいけない。』

『例えば、天然の鯛 (たい)を食べて、身が痩せていて味は乏しいと捉える人もいる。逆に養殖の鯛は脂がのって柔らかで、なんと豊かな味という人もいる。養殖でたっぷり餌を与えられていれば、身は太って脂がのるに決まっている。でも、それは本来の鯛の味とは違うのだ。』

一方で三國さんは“天然もの”至上主義な訳ではなく、養殖素材についてもこんなことも書いています。

『養殖と言うと、悪いイメージを持つ人が多いが、それは誤りで、養殖にもピンからキリまである。正しい養殖法で育てられた食材は素晴らしいものなのだ。正しい養殖法とは、環境の良い湖や海を選んで、安全で正しい餌で、良心的な生産者がまっとうな育て方をすること。そうして健康に育てられた魚介は料理する側にとっても本当に良い素材となる。』

要は素材の本質的な良さ(美味しさ、魅力)を見極める味覚が極めて重要と言うことなんですね。あの三國さんが、『われわれは味覚を鍛えなきゃいけない。』と心しているわけですから、コーヒーという味覚の世界に身を置いたばかりの自分にとっては味覚磨きに精進!、精進!の真っ只中です。

前述の鯛の風味で天然ものと養殖ものと美味しさの捉え方に差異が生じると例がありましたが、その差異はコーヒー豆の風味の感じ方にも当てはまる側面があると思っています。真に美味しいものの風味と言うのは、ガツンと感じるようなものではなく、繊細なものだからです。

それ故、コーヒー本来の繊細な風味を感じることを邪魔する焙煎のズレ(それが起きると雑味感が発生します)を寸分も起こさない、再現性を持った焙煎、そして味覚を鍛え続けることが焙煎人の使命だと心しています。

そしてシングルコーヒーの産地ごとの繊細な風味の違いや、えも言われぬブレンド風味の妙を一人でも多くの方にお届けしたいです。

 

いろどりこーひーは珈琲豆を通して、皆様の心豊かな生活に“彩り”をお届けします。

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