2023年5月30日火曜日

No.119_味覚を磨く、マスタリーへの挑戦


とっても私的な事柄の書き出しで恐縮なのですが...

本日5/30は父の誕生日で米寿を迎えました。父は僕の故郷北海道岩見沢市で夫婦で元気に暮らしていますが、このつぶやきを毎週読んでいるのだそうです、いろどりこーひーを飲みながら^^。今回は僕も定休を利用して、久しぶりに帰郷。子供、孫、ひ孫たちも集合して、お祝いしました。

さて、今回はいよいよ味覚シリーズの最終章です。(シリーズだったんですね...笑)

つぶやきNo.117]で『味覚とは...』、[つぶやきNo.118]で『コーヒー豆作りにおける味覚を磨く意味合い』について触れました。そして今回は『味覚を磨く』です。味覚をどうやって磨いていくか!です。これはNo.118で触れた通り、食品を製造する上では(飲食業でも)確かな味覚を備えていることは、最も大切、且つ必須なことだと思っています(焙煎もいわゆる乾熱調理の世界です)。一方で味覚は一朝一夕には身に付かず、とても難しく、時間の掛かることであるとも思っています。

そんな中、大きなヒントがNo.117で引用させて頂いた、三國清三シェフの言葉にあると思っています。『味覚の仕組みを知る/味覚は気付きだ(ワラビのエピソード)/味覚は心掛け、取り組み一つで、程度の差こそあれ、何歳になっても磨いて行ける』です。

しかし、頭の中では『なるほど!』、『そうなんですね!』と漠然と理解出来ても、ではどんな取り組みを継続して行くのか!が、大きな課題です。

No.117で“ワラビのエピソード”を引用しました。そこには『山菜取りに行ったものの、最初は生い茂る草木の中でどこに山菜があるかなんて全くわからない。しかし同行した山菜採り名人から、『そこにワラビがある!』と教えられ『本当だ!』と一度気が付くと(意識出来ると)他のワラビもどんどん見つけられるようになる』 と言うものでした。そして三國さんは『味覚を知ると言うことは“気付き”だ!』おっしゃっています。

実は僕にもこの名人に当たる師匠がいます。開店当初からお世話になっており、味覚の面はもちろんあらゆる事柄で全幅の信頼を寄せている方です。

No.118でより美味しいコーヒー豆を作るには、焙煎、カッピング、焙煎、カッピングをひたすら繰り返すこと、すなわち研ぎ澄まされた味覚軸のもと把握、評価、工夫の仮説を立て再度実施、検証を繰り返すこと、そして“美味しさ”を更に更に高めていくと書きました。

実はそのカッピングの過程で同じ豆を10g封筒に詰めて師匠の元へも送り、カッピングチェックを仰いでいます。もちろん事前に自身でカッピングを行い、自己評価(うまく行ったと感じたこと、もう少しこうしたいと感じたこと等)を添えて送り、その内容についてアドバイスを頂いています。

師匠からは『商品の美味しさは店主の味覚以上のものは提供出来ない』と言われています。これはとっても重く受け止めています。自身の味覚は未だ未だ途上だと思っているので...

味覚を磨く行為は、決して交わることのない(到達することがない)漸近線(ぜんきんせん/今回の写真)の先へ先へと進んで行く様なものです。

ある本に書いてありましたが、このような取り組み、挑戦を『マスタリー(熟達)への道』と呼ぶようです。これはアスリートや芸術、創作(物も食も)の世界のトップを走る人たちは誰もが持っている心持ちとのことでした。

そう言う意味では大谷翔平さんがこれからどれだけ前人未踏の記録を打ち立てようと、これで満足ということは無いと思いますし、藤井聡太6冠が仮に8冠を達成しても『はい、全てやり切りました』と更なる取り組みを止めることは無いでしょう。テニスのジョコビッチもグランドスラム大会を22回も優勝してさえ、尚も飽くなき鍛錬、挑戦を続けているのですから...

世界、レベルは全く異なりますが、僕もコーヒー豆の世界で自分の描くマスタリーに向かって挑戦を続けたいと思っています。

 

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2023年5月22日月曜日

No.118_コーヒー豆作りにおける味覚を磨く意味合い


写真は葛西臨海公園で見掛けた来月の主役^ ^アジサイです。青々した蕾が開花の準備を整えていました。

さて、前回の[つぶやきNo.117]では『味覚とは...』をテーマにしましたが、今回はその続編『コーヒー豆作りにおける味覚を磨く意味合い』です。

コーヒー豆作りにおける味覚は単に『コーヒーを飲んだその味で豆種を言い当てられる』とか『その味を言葉で表現出来る』と言ったことではありません。更なる美味しい豆作りのために必須なもの、それが味覚と捉えています。

これはどう言うことか?...その説明のためにも僕の日常のルーティンを少々ご紹介します。

焙煎は開店前の朝、やっています。8時台に始めることが多いですが、窯数が多い時は7時台から始めます。

焙煎中はこのつぶやきでも何度か紹介させて頂きましたが、とにかく寸分違わず同じ進行になるよう集中して作業します。これで“出来栄え”➡️“ブレの無い味の再現性”を確保します。

焙煎が終わると豆の目視チェック[つぶやきNo.72]をしてからカッピングを行います。カッピングの所作は[つぶやきNo.57]で触れましたが、いわゆる『豆の味チェック』です。ここで前述の味覚が重要になります。

チェック項目はいろいろありますが、一番は豆のクリーン度(淹れたコーヒーに焙煎起因の雑味がないか?)です。例えば焙煎前半の豆内の水分抜きが甘いと重たい風味が現れ、豆本来の軽やかさ、華やかさは楽しめなくなります。かと言ってカロリーを与え過ぎると(火力が少しでも強過ぎると)焦げの一歩手前まで進行してベイクド感という嫌な風味の兆候が現れたりします。そうなると途端にバランスが崩れて、まろやかさが失われます。口当たりの悪さ、後味の悪さは全てこの雑味から来ます。(雑味は他に素材(生豆)の品質起因の場合もありますが)

自身で言うのもなんですが、雑味の無い焙煎ルーティンは、ほぼ出来ていると思っています。一方でこれらが達成されたらそれでいいのか?と言うと味の世界には未だ未だ先があるとも思っています。いろどりこーひーを飲んで下さるお客様にとって『本当に美味しい!』、『本当に魅力的!』と感じて頂ける更なる高みの世界です。

音楽の世界では絶対音感を持った方が稀にいらっしゃいますが、味の世界で絶対味覚のようなものが持てたらどんなに素晴らしい世界が開けるのだろうなんて思ってしまいます。流石にそれは難しいとは思いますが、高めると言う取り組みはずっと続けたいと思っています。

より美味しいコーヒー豆を作るには、焙煎、カッピング、焙煎、カッピングをひたすら繰り返すこと、すなわち研ぎ澄まされた味覚軸のもと評価、改善の仮説を立て再度焙煎、検証を繰り返すことだと思っています。これには近道と言ったものは無く、継続、そして歳月を重ねるしかありません。正に”不器用の一心”ですね。

とは言いながら正直、僕の味覚はまだまだ途上だと思っています。味覚を磨きたい!味覚を高めたい!本当にそう思います。問題はその磨き方です...それはまた、次回以降触れさせて頂きます。

 

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2023年5月15日月曜日

No.117_味覚とは...


今回の写真は店に掲げているドライフラワーの三日月型リースです。なんと繊細で、可愛らしい!一瞬で気に入って購入、この度付け替えました。(╹◡╹)♡

さて、今回のテーマ『味覚とは』ですが...

コーヒーは飲むものですので、その元となるコーヒー豆は大きな括りでは『食品』であると言えます。そんな食品を製造、販売している身として味覚にはとても興味があります。

味覚とは資質なのか?味覚は磨けるのか?味覚を磨くにはどうしたら良いのか?...

それらに関わる本を読むことも多いのですが、今回はフレンチシェフの三國清三さんが著した本(『味覚を磨く』、『三國清三シェフの味覚の授業』、『15歳の寺子屋前進力』の中で味覚に関わるお話の部分を抜粋、ご紹介させていただきます。(以下斜体部分が抜粋です)

人間の舌はどうやって味覚を感じとっているのでしょうか?その役目を果たすのが、舌の表面にある“味蕾(みらい)”と言う器官です。その数は12歳頃に4万前後と最も多く、あとは年齢とともに減少し、20歳頃には約1万になってしまいます。(中略)

味覚は意識するよう心掛ければ、さまざまな味をキャッチ出来るようになります。例えば山菜採りをイメージしてください。最初、あたりは植物だらけでどこに山菜があるのかサッパリわからない。でも名人から『ほら、あそこにワラビがある!』と教えられ、『あっ、本当だ!』とワラビを認識したとたん、生い茂った一面の緑のあちこちにワラビが生えているのがちゃんと目に入るようになる。味覚を知ること。それを僕は『気付き』と呼んでいます。この『気付き』さえあれば、自然に味をチェックする習慣が付き、味覚を感知する能力が開発されていく。30歳でも40歳でも、あるいは80歳からでも意識さえすれば、程度の差はあっても味覚を鍛えることが出来るのです。(中略)

基本味の定義は、「いかなる味も甘み、塩味、酸味、苦味の4つの味の組み合わせによって出来ている」です。(近年はタンパク質を構成するグルタミン酸によって起こる感覚『旨味』(英語表記もUMAMI)を加え、基本味は5つとする説もあります。)では、辛味と渋味どうか?なぜ基本味に入らないのかと不思議に思う方も多いはず。しかし辛味は味蕾で感じるのではなく、口の中の粘膜にある「三叉神経」が受容する痛覚の刺激なのです。そして緑茶や赤ワインなどの渋みは、痛覚も刺激するし、味細胞(味蕾)でも受容すると言う不思議な存在で、味蕾で受容される場合は、苦味として感知されるのです。』

基本味は全て4つの味から構成されると言うのも興味深かったですし、ワラビに関わるエピソードもなるほど!と思いました。そして味覚は80歳を超えてさえ、意識すれば鍛えられるとの話もありましたので、『これは挑戦し続けなくちゃ』と思わせてくれました。そうそう三國さんの本は昨年発売された『三流シェフ』も読みましたが、これがまた素晴らしい!三國さんの生き方にはとにかく凄いなぁ!、素晴らしいなぁ!と感銘を受けます。

 

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2023年5月8日月曜日

No.116_華やか系ブレンド“スカイオーシャン”のご紹介


昨年も同時期に発売したスカイオーシャンですが、今年もコンセプトはそのままに、一方でアプローチを少し変えてバージョンアップしたスカイオーシャンとして再登場です。

因みにコンセプトは、昨年同様、『ほんのり優しいフルーツ感。淡く長く続く余韻が心地よい』です。

昨年のスカイオーシャンの『フルーツ感』は、アリチャ・ナチュラルが担っていましたが、今年はその役割をグジ・ナチュラルにバトンタッチしました。グジ・ナチュラルは本来『芳醇なフルーツ感』が持ち味ですが、ブレンドでバランスを取ることにより、ほんのり優しい印象に仕上がりました。3種類の豆をブレンドしていますが、『淡く長く続く余韻』では、モカ・ハマが良い働きをしてくれています。因みにモカ・ハマはシングルでは、冷めて行く過程で紅茶っぽさを漂わせ始めますが、それがこのスカイオーシャンでは、淡く、繊細な余韻を奏でています。

今これを書いていてハッと思い付いたんですが...

ブレンドはまるでオーケストラが作り出すハーモニーの様ですね!それぞれ”芳醇なフルーツ感”とか”紅茶の様な余韻”等の特徴、得意技(笑)を持ったアーティストが集合し、それぞれのパートで抑揚の効いた演奏をして、全体としてシングルには無い魅力を発揮する!みたいな...すると余韻はデクレシェンドで、差し詰め僕はコンダクター?いやいや、調子に乗りすぎました。(^^;; でも、そんなことを思い描いて精進していくのも悪くありませんね^ ^

スカイオーシャンに話を戻します。

ソフトなのにハッとする飲み口の印象、それが優しいフルーツ感の味わいにつながり、最後は淡く繊細な余韻まで流れるように繋がっていくブレンドです。どうぞお楽しみください。

 

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2023年5月2日火曜日

No.115_焙煎機の窯の中


背の高さを越えるそして重量約350kgもある焙煎機が店内にありますので、時々お客さまから『あれが焙煎機ですか!』、『機関車みたいですね!』と驚かれることがあります。そして更に興味をお持ちの方で、お時間が許す方には焙煎機を間近に見て頂くこともあります。そこで今回は、その時ご質問頂いた内容、お応えしたことをご紹介させて頂こうかと思います。

丁度この『つぶやきNo.59』に焙煎機の姿を掲載していますので、もし宜しければそちらも参照頂きながら、以下ご覧頂けるとイメージが湧き易いかもしれません。

焙煎する生豆は上部のホッパー(大きなじょうご状の部分)から投入します。その豆は窯の中で(正確には窯の中の『シリンダー』部分で)で焙煎されて行くのですが、今回はその窯の中のお話になります。

今回の写真を先にご覧になった方は、『一体何だ?これは?』と思われたかと思うのですが、実はこれがシリンダー内の様子です。焙煎が完了した豆の排出口(No.59掲載写真の『PROBAT』と書いてある部分の狭いところ)を開けて、覗くように撮影したのですが、ここまで説明しても分かり辛いですね...きっと。

焙煎機のシリンダー部分は円筒を水平にした空間で、その中心に軸があり、焙煎中はシリンダー全体が回転しています。(軸は今回の写真中央の棒状の部分です。)

その様子は『ドラム式全自動洗濯機に似た』と言うと、イメージ出来るかと思うのですが...シリンダー内には写真の通り複雑に板状のものが配置されています。そして焙煎中はシリンダーが回転しているので豆は跳ね上げられ、且つ空中でもバラバラと撹拌されながらやき進みます。ところで、この様に焙煎のことを『豆をやく』とも言いますが、この『やく』は、『フライパンで焼く』とか『網に載せて焼く』の『焼く』とは大きく状況が異なり『熱風でやく』のです。そこで僕としては当て字ですが是非『焙く(やく)』とお伝えしたいです。

『えっ?熱風で焙く?』ですね...

いろどりこーひーの焙煎機はドイツのPROBAT(プロバット)社製なのですが、これは半熱風式と言われる方式で主に熱風で焙いて行きます。因みに今回の写真、シリンダー突き当たりにパンチング状の穴が沢山空いているのが見えるでしょうか?シリンダーの下ではガスの火が焚かれますが、豆はその火に直接触れることなく、このパンチング状の穴から強力に吸い込まれる熱風で焙かれて行きます。と言うのも、焙煎機と煙突の間にはサイクロンと呼ばれるエアー吸引装置が設置されていて、これが焙煎機内の熱風を強烈に吸い込み、煙突経由、排煙しているからです。(ここではチャフと呼ばれる豆の皮も外に放出しない様、除去されます。)

この熱風で焙いていく(細かくはシリンダー金属への接触熱、それを囲っている窯の鉄(鋳物)の輻射熱・遠赤外線も加わり)PRPBATの方式は豆の表面から芯まで均質に焙き進めることが出来るとても優れた方式です。この『均質に』ということは非常に大切なことで、前述の豆内(表面から芯まで)もありますが、豆間(焙いている全ての豆粒間)もです。これにより雑味のない柔らかな風味が実現されるのです。

因みにシリンダー内にはその温度を測定するための金属の棒(温度感知棒)が設置されています。焙煎中はこれに豆がコツコツ当たり、気温と豆の表面温度の融合したものが、シリンダー内温度としてデジタル表示されるわけです。ですから僕はここで表示される温度は『シリンダー内温度=豆の温度』とイメージして、豆に与えるカロリーをコントロールしながら焙煎を進めています。

今日はかなりマニアックな内容、且つ長文になってしまいました。(苦笑)

 

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