2025年5月27日火曜日

No.223_豆の声に耳をすます


今まで何度か焙煎中のコントロール、制御に関する話をしてきました

“コントロール”、“制御”と聞いて浮かぶのは、ひょっとして管理、統制、支配と言った、ややもすると力尽くで抑えるような、アクティブ(積極的、能動的)な情景をイメージされるでしょうか?

焙煎はむしろ、その正反対、パッシブ(受動的)な心持ちで取り組むべきものだと思っています

そしてこのアクティブ、パッシブの心持ちの違いは出来上がる豆の味にも反映されると思っています。アクティブに挑むと角のある、とんがった風味に!パッシブに挑むと丸みのある、柔らかな風味に!

と言うのも前述のアクティブな心持ちは、「僕の焙煎でこの豆をこんな味に仕上げてやろう」、「こんな味を引き出してやろう」みたいな思いに至ります。例えば「浅煎りでフルーティにしてやろう」、「深煎りでダークにしてやろう」みたいな感覚です。これでは「自分勝手な焙煎」、「自分がやりたいようにやっただけ」と言われても仕方ありません。そんな焙煎で美味しい豆が創れるわけがありません...と、僕は思います

方やパッシブ(豆の声に耳をすまし、受動的)な焙煎は、

豆自身が発する「僕(豆)は、こうしてくれると最高に美味しくなるよ〜」という声に耳を傾けて、その成長(焙煎による変化)に寄り添う...そんな感じです(いささか稚拙な表現ですが...^^;)

この「耳をすます」と言うのは「音を聞く」と言う意味ではなく(実際、豆はしゃべらないですから^^;)、焙煎後のカッピング(≒味見)でその風味を確認し、「僕(豆)はもう少し明るいんですよ〜」、「僕はもう少し柔らかな甘さに包まれてるんですよ〜」、「僕はもう少しコクがあるんですよ〜」そんな声を聞き取り、「分かったよ〜!では、この次は▲℃〜⚫︎℃までの火力を少し上げて(カロリーを上げて)その間の進行をさっきより5秒早めて、君の良さが出るようにやってみるからね〜」そんな会話をしながら、次の焙煎でそっと優しくそれを試みて、またカッピング(耳を傾ける)...その繰り返しです(こうすることでアプリコット、ピーチの完熟感がより感動的に際立ってきたりします)

そしてロースティングポイント(ヤキ止め、豆を窯から外に出すタイミング)も同様に決めていきます(収束させて行きます)

結果的に豆種毎に浅煎りとか深煎りと言った焙煎プロセスの差は生まれますが、これは豆の声を聞いた結果であって、「浅煎りでこんな味にしてやろう!」、「深煎りでこんな味にしてやろう」と言った戦略の話ではないんです

これにより豆種は違ってもそこには丸みや柔らかさと言った、基本テイストが共通に備わります

それが備わっていてこそ、豆種毎の異なる風味が楽しめるわけです

と言うわけで“焙煎”は窯に入れてヤイテいる間だけを指すのではなく、その後のカッピング、そしてそこで感じたものを次のヤキで微調整、そしてまた...と、豆との“やさしい会話”の連なりを織りなしていく作業なのです

 

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2025年5月20日火曜日

No.222_焙煎進行管理の肝はインタバル管理


今回のテーマ、ちょっと職人気質な内容で恐縮ですが、僕が焙煎を進める上で意識していること(大切にしていること)のご紹介です

それは“インタバル管理”です

と聞いても、何だそれ?...ですね(苦笑)

この“店主のつぶやき”の中でも何度か進行管理に触れてきましたが、概要を改めてお話しすると...①美味しい豆を作りたい→②毎回同じ味にヤキあげた上で微細な変化、工夫を積み上げ、美味しさを極めていく→③毎回同じ風味にヤキあげるには(味の再現性を確保するには)春夏秋冬、毎回同じ進行を実現しなくてはならない→④毎回同じ進行にするには焙煎に関わる総時間を管理するだけではなく、フェーズを細かく区切り、その経過タイムを揃えていく必要がある→⑤当初10℃毎の経過タイムを設定していましたが、今は5℃毎の経過タイムを設定してブレを最小限に制御しています→⑥経過タイムを揃えると言うことはフェーズ毎の“インタバル”を揃えると言うこと→⑦“インタバル”を揃える意味はフェーズ毎に与えるカロリー(≒エネルギー)を揃えることと同義で、それにより毎回同じ味が作り出されるというロジカルです

因みに上記で「揃える」と言う表現を使いましたが、これは「フェーズ毎、全て同じ時間にする」と言う意味ではなく、「フェーズ毎に設定した異なる適正時間を毎回再現する(揃える)」と言う意味です(この「フェーズ毎」というのは、「窯内温度を180℃→185℃→190℃と5℃上昇させる毎」の意味です)

そしてこの「フェーズ毎の異なる適正時間」が冒頭記した“インタバル”の意味です。それがマチマチなのはフェーズ毎に与えるべき適正カロリー(≒エネルギー)が違うということです

因みにこのインタバルは、この世にテキストがあるわけではなくて、自身の味覚を頼りに、上記の①→⑦、そしてその逆の⑦→①を何度も何度も繰り返して“収束”させてきた値(時間)です

焙煎の過程を豆の変化という観点で捉えると、❶水分抜きステージ(準備段階とも言えます)、❷デベロップステージ(風味の核を形成する化学変化の段階)、❸ローストステージ(味わいを仕上げる最終調整段階)と推移します

それぞれのステージで過不足無い進行(完璧な進行)を実現しないと、そこでのダメージ(香りが飛ぶ、甘さ、明るさ、軽やかさが無くなる等の風味低下)が避けられませんし、そのステージの進行の不完全が次のステージでのダメージに繋がることもあります(水分抜き工程が不十分だと次工程で完璧なデベロップは望めず、ドヨンと重たい風味になります。一方、水分抜きし過ぎてカラカラになっては香りが飛び、薄っぺらい風味になります。また、水分抜きステージを始め、全工程のほんの一瞬でも表面焦げが発生するとそれはもう取り返しが効かず、後味に纏わりつく嫌な雑味に繋がります)

それ故、上記❶、❷、❸を更に5℃上昇毎のフェーズに細分化して、その間に与えるカロリーコントロール(インタバル管理)をしているわけです(これは『No.220_焙煎中、加速度を捉えながら進める火力調整』の内容にも通じます)

そのその昔、僕が新入社員の頃、ISO、TQC(Total Quality Control)の一環で「後工程はお客さま」なんてことを教わっていましたが、そんな感じです(細かなことを述べてきた割に、最後の纏めが雑ですねぇ〜 ^^;)

結局のところ、“インタバル管理”の行き着くところは、(後工程と言っては甚だ失礼ですが、最終目的の)「全てはお客さまの『美味しい!』のために!」に、繋がっています

 

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2025年5月13日火曜日

No.221_島根の小さな名店で“商い”の真髄に触れた夜


ゴールデンウィーク中、5日間、店休を頂戴し、初の島根県、鳥取県へ旅行してきました

空路島根空港に入り、鳥取空港から帰京するまで、レンタカーを利用して、出雲大社、鳥取砂丘、そして天橋立(こちらは京都府ですが)まで足を伸ばしてきました

出雲大社は予てから行きたかったところでしたので、やっとその念願が叶いました。緩やか〜に下っていく長い直線の参道は新緑に抱かれ、そこから既になんとも清らかで心地良い心持ちを体験しました

やがて拝殿が現れ、作法に倣い、2礼4拍手1礼でお参りした後、御本殿の周囲を進みましたが、御本殿の威容を放つ圧倒的な存在感には正に神域を感じました。そして神楽殿に達し、大しめ縄(5.2tあるそうです)を目の当たりにしたその迫力は、写真や映像を見て捉えていた印象よりは数段上のパワーを感じました

と、旅日記を書き始めるとキリがないのでこのへんにして、今回の本題、出雲市駅からほど近いところに位置する地魚料理店“久鶴(ひさづ)”さんをお訪ねした時のお話です

一言で言うと「心地良い雰囲気の中、一際美味しい一品一品を堪能しました」と言うことなのですが、今、ここで記したくなるほど、素敵な、そして貴重な体験でした

久鶴さんは、80代のご夫婦が切り盛りされているカウンター10席の地魚料理店で、創業50数年になるそうです

1ヶ月ほど前に電話予約した上で伺いましたが、その際、「何か食べたいものはありますか?」とのことでしたので、「もしノドグロが頂けるようでしたらお願いします」とお伝えしておりました。その際も最近はなかなかイイものが揚がらず、「入った時はね!」とのことでしたが、伺ったその日は運良く頂くことが出来ました。塩焼きで頂きましたが、脂のノリ、身の絞まった柔らかさ、上品な甘さ...とにかく最高の美味しさでした。ムシガレイ(水深140m程のところに生息しているそうです)の揚げものも頂きましたがこれまた絶品でした。お造りも、どの一品も最高の美味しさで、且つ提供されるその姿が実に美しい!旨いから美しいのか、美しいから旨いのか、その両方だと思いました

大将のコックコート(調理白衣)も真っ白でしっかり糊付けアイロン掛けされた出立ちでしたし、指がとっても美しかったですね...店内の整理整頓、清掃もピカピカでした。調理の所作や客サービスもテキパキと言うよりは、澱みなくスー、スーッと言った感じで何とも心地よく、安定感、安心感がありました。また、大将、女将の掛け合い、連携は絶妙で、見ててとっても微笑ましかったです

そんな美味しい肴と美味しい地酒、そして気さくで温かい大将、女将さんとも色々会話出来て、ホント素敵な時間を過ごさせて頂きました

そして僕は「美味しい料理を通して、私たちを幸せな気持ちにさせてくれるこのご商売は最高ですね!」と思わずお声掛けしてしまいました。それを聞いた大将が無言でニッコリされた表情は今でも忘れられません

また、店を出る時には、女将さんから「だん!だん!(島根の方言で「ありがとう」の意味)」とお声掛けして送り出して頂き、何ともほっこりした気分に包まれました

創業50数年の久鶴さんと5年目を迎えているいろどりこーひーには、天と地ほどの差がありますが、いろどりこーひーも久鶴さんのようなお店に育ってほしいな、育てたいなと、思わずそんな気持ちに包まれた素敵な島根の夜でした

 

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2025年5月6日火曜日

No.220_焙煎中、加速度を捉えながら進める火力調整


今回のテーマは焙煎中行っている“火力調整”についてです。言い換えると焙煎の“進行管理”です

時々、お客さまから(店内の焙煎機を指差して)「アレでヤイテるんですか!」、「あれが焙煎機ですか!機関車みたいで重そうですね!」、「あの操作は大変そうですね!」と言ったお声掛け頂くことがあります

焙煎中[やっていること]、そしてその間[思考していること]を端的にお伝えするのは実はなかなか難しいです

と言うのも0.1℃単位で上昇し続けるデジタル温度計(窯内温度を計測しています)と0.1秒単位で経過時間を刻むストップウォッチを両睨みしながら、変化し続けている豆の“今”を把握し、次の+10℃後、その次の+20℃後、さらにその先までの「こう進捗しなければならない」を見据えながら微調整し続ける作業なものですから...

こうお伝えしてもきっと、何のこっちゃ?ですね(苦笑)。と言うわけで、今回は[温度]と[火力]に絞ってお話を進めていきます

因みに焙煎というの100℃以下の温度から200数十℃まで、上昇し続ける温度の中でヤイテいきます(鍋料理の弱火で何分みたいな、同じ火力、同じ温度でヤキ続けるわけはありません)

その上昇し続ける温度も経過時間に対して直線的に上がっていくわけではなくて、緩やかなフェーズもあれば、急なフェーズもあります

この[緩やかな]と[急な]は、ヤイテいると自然と「そうなる」のではなくて、意図的に「そうしている」ことによります

今回のテーマ“火力調整”に話を戻すと、火力調整には大別すると“①動かす火力調整”と“②合わせる火力調整”があります

①動かす火力調整

これは前述の通り、意図的に操作する火力調整で、全ては「美味しい豆づくりのために」行っていることです。この操作は基本的に10℃上昇毎に意図的に行います。この時の動かす火力は同じ豆種の前回のログ(履歴)を頼りに行います(豆種毎に全て異なります)。この10℃毎に動かす計画火力は、開店以来数千回ヤイテきたログとヤカレた豆のカッピング(≒味見)から微修正を加え今に至っているメソッド(手法)です。例えば直前の10℃間は30目盛という火力(この目盛数値は単位のない火力スケールと捉えてください)でヤイテいたものを、165目盛の火力にし、+10℃後25目盛にして、さらに次の+10℃後は12目盛にして...のようにかなりドラスティックに(思い切って)操作して行きます

②合わせる火力調整

こちらは①の操作をしていく過程で目指す進捗秒数から数秒のズレ(進みor遅れ)が生じた時、このズレを補正していく作業です。前述の例で165目盛で進捗させた後、10℃上昇後の経過タイムが目標値より仮に6秒早かった場合、次に操作する火力は計画値25目盛より2下げて23目盛に合わせる様なことを行います

この時、大切にしている感覚は単に「早く進んだから火力を下げる」という単純な操作ではなく、10℃毎に進捗中の「加速度を体で捉えながら操作していく」というものです。目標タイムより6秒早く進捗したということはプラス6という上昇加速度が作用している状態と捉えます。次の10℃の間、2目盛火力を下げて、仮に目標経過タイムに合わせられた場合、その10℃の間は目標タイムより意図的に6秒遅らせたので、マイナス6と言う減速加速度作用状態にあったと捉えるわけです。そうなると次、操作する計画火力12目盛はマイナスの加速度が働いている状況下での操作なので、定常時12目盛に合わせるところ、その時支配されている減速加速度状況が引き続き作用すると推察して、1目盛高い13目盛に合わせて経過を注視する...みたいなことを体で感じながら操作しています。

因みにこの加速度は、焙煎機の窯を覆っている鋳物(鉄の塊)部分の蓄熱状況が作用しています(上記の例だとマイナス6秒減速させるため、その間の火力を意図時に下げたので、定常時より窯を覆う鋳物部分もほんの僅か冷めた状態になり、これが次のフェーズにマイナスの加速度として作用します)

書いているうちに思わず勢い余ってマニアックというか、熱い職人域に突入してしまいました(苦笑)。後段の[減速加速度作用状態]と言うのは、例えば電車に立って乗っている時、次の停車駅手前で急に減速し始めると体が少し前のめりになる、あの状態です

冒頭、焙煎中[やっていること]、そしてその間[思考していること]を端的にお伝えするのは実はなかなか難しいいですとお伝えした通り、もしかしたら詳細迄は伝わらなかったかもしれませんが、「いろいろ考えながらヤイテいるのね!」の感触だけでもお伝え出来れば、ご紹介した甲斐がありました^^;

焙煎は、メソッドを基に五感と勘をフル回転させる、「豆との対話の時間」です o(^-^)o


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