2024年8月13日火曜日

No.182_焙煎前半の水分抜きの大切さ


今回は焙煎論みたいな少々お堅い、そしてイメージし辛いお話ですが、宜しかったらお付き合いください...

焙煎は焙煎機の窯(回転するドラム)に生豆を投入して、20数分のヤキを経て、煎り止め(窯から放出)に至ります。

20数分のヤキの間には、緩やかにフェーズ(段階、局面)が有って、前半が今回のテーマでもある『①生豆の水分抜き』のフェーズです。その後、『②デベロップ(豆の組織に化学変化が進む段階で焙焦反応とも言います)』のフェーズ。そして終盤、ヤキを深める『③ロースト』のフェーズへと進みます。

焙煎前の生豆は凡そ10〜12%程度の水分を含んでいます。焙煎により、その水分が減少していくのですが、その様子を1粒の豆に着眼してみると...

焙煎の加熱により豆の表層が先ず温度上昇していきます、豆の熱伝導率は金属に比べて数千分の一とのことですが、豆中心部の温度も表層の後を追うように上がっていきます。

①水分抜けもこの温度上昇に追随して豆の表層から抜けていき、中心部の水分も表層側に吸い寄せられるように抜けていきます。

前述の通り、②デベロップのフェーズは、豆の組織に様々な化学変化が起きてコーヒーらしい風味が出来上がる重要なフェーズですが、それを迎えるタイミング(窯内温度170〜180℃辺り)の「豆の状態」が、これまた、とっても重要です。

その「豆の状態」で最も重要なのが、「水分抜きの程度」なのです。

デベロップ前の豆は、「豆の表層も芯部も均質に、乾いた状態である必要があります。(一方、水分0%の枯れた状態もいけないという微妙なもので、実際、焙煎後のコーヒー豆には1%程度の水分が含まれています。)

この状態をイメージして頂くためにも、逆にダメな状態をいくつか紹介しますと...豆の表面だけ乾いていて、豆の芯部に多めの水分が残っている状態/豆の芯まで乾燥させようとするあまり表面焦げが始まっている状態などです。

水分抜きが甘いと極端な場合、エグ味を招きますし、軽度でも重たい風味になる、明るさに欠ける、マウスフィール(口触り)が劣るなど、ネガティブな風味を招いてしまいます。逆に抜き過ぎてカリカリに枯れた状態や表層焦げ兆候に至ると、適正な化学変化は起きず、結果、コーヒー本来の美味しさも創り出されず、飲み口、後味も悪いコーヒーになってしまいます。

少しだけ化学的な補足をすると、生豆中の成分でクロロゲン酸というものがあるのですが、適正な水分抜き下で化学変化を起こすと、クロロゲン酸ラクトンに変質して、コーヒーらしい香気成分が作られます。一方、水分抜きが不十分な状況下で化学変化を起こすと、これが加水分解を起こして、カフェー酸、キナ酸に分かれ、前述のネガティブな風味を作ってしまうのです。

焙煎ではどのフェーズも疎かに出来るフェーズはありませんが、今回は前半の水抜きフェーズの大切さをご紹介させて頂きました。

 

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P.S. 

上記で【ヤキ】とカタカナ表示している理由ですが...一般的にヤキというと【焼き】と言う漢字を当てると思います。ただ、焙煎におけるヤキは前述の通り、単に「火で焼いている」訳ではなくて、そのフェーズ、フェーズに応じた変化を促すため「カロリーを与えている」との思いがあるものですから、【焼き】と言う漢字表記がどうもしっくり来なく、カタカナ表記させて頂いた次第です。可能であれば、焙煎の焙の字を使って【焙き(ヤキ)】とでも表記出来ると良いのですが...