前回のつぶやきNo.238でブラジルイパネマ農園の豆を紹介させていただき、その精製方法は「アナエロビック(嫌気性発酵)」を経ています」とお伝えしました
“コーヒーの新しい精製プロセス”としても注目されるアナエロビック(アナエロビック・ファーメンテーション/Anaerobic fermentation)。今回はそれをもう少し掘り下げてみたいのですが、その前に...「1.精製とは」と、「2.精製プロセスの中での発酵」からお話を始めたいと思います
1.精製とは
コーヒー豆はそもそもさくらんぼの様な果実の種子(タネ)です(豆ではなくて)
その果実から種子を取り出し、焙煎前の生豆(なままめ)と呼ばれる状態にするプロセス(工程)を“精製”と呼んでいます
精製プロセスは、大別するとナチュラルとウォシュドに分けられます(細かくは他にもありますが)
ナチュラルは、赤い実のまま乾燥させた後、脱殻する(種子を取り出す)方法、ウォッシュドは機械でサッと皮を剥いて、水槽に2〜3日漬けた後、果肉を綺麗に洗い落としてから乾燥させ、脱殻する方法です(もしよろしければ、つぶやきNo.24、No.213に、もう少し詳しい説明があります)
2.精製プロセスの中での発酵
「コーヒー豆を作るのに発酵の過程がある」というのは、あまり知られていないかもしれません(蛇足ですが...ワイン、チーズ、ヨーグルト、ビールもみんな“発酵食品”ですね)
ナチュラルでは赤い実を乾燥させる初期段階(果肉がまだ柔らかい段階)で発酵が作用します。ウォッシュドでは、水槽に漬けている過程で発酵が作用します
発酵には微生物が作用しますが、その微生物は酸素を利用してエネルギーを生成し、果肉の糖分を分解し、アルコール類(アルデヒド類、香りの成分のひとつ)や有機酸(クエン酸やリンゴ酸など)化合物を生成し、それが「コーヒーにクリーンで明瞭な風味と香りを与える」ことにつながっています(この発酵が進捗するフェーズはつぶやきNo.214で詳述しています)
さて、ここでようやくアナエロビックのお話ができます
アナエロビックは嫌気性発酵とも言われ、敢えて酸素が無い状況を作り出し、そこで発酵を作用させます。具体的には果実をステンレス製の逆止弁付き(エアは抜けるけど入らない)密閉タンクに詰めて、発酵させるのですが、最初は果実の隙間に多少空気(酸素)が残っていますので、発酵初期は好気性の微生物も作用します。しかしやがて逆止弁つきバルブを経てガス(二酸化炭素)が抜け、酸素がなくなった密閉状態になり、ここからは無酸素状態で活動できる微生物が活発化します
前述の酸素がある発酵(好気性発酵=エアロビック発酵)はアルコール類、有機酸化合物が生成されると記しましたが、無酸素状態(嫌気性発酵=アナエロビック発酵)では、微生物はエネルギーを得るために果皮や果肉の糖分を分解し、エタノール、乳酸、エステル化合物(フルーツのような甘い香りの元になる成分)を生成し、これらが種子(コーヒー)にフルーティー、且つ複雑でユニークな風味、香りを与えることとなります
アナエロビックとはどんなものか知っていただきたく説明を始めたのですが、物質の話をし始めて、却って難解になってしまったかもしれません...^^;
要約すると「発酵時、酸素が有るか無いかで、作用する微生物も異なるので、結果的に生成される物質も異なり、出来上がる豆の味、香りも異なる。こうしてアナエロビック(酸素が無い状況下での発酵)を経たブラジルイパネマ農園の豆の「黄桃やプラムのようなネクタリン感、明るくジューシーでトロリとした甘さ」が生み出された...といったところでしょうか
ちなみにアナエロビックを経た果実は、ナチュラルのように天日乾燥され、脱殻される工程に向かいますので、アナエロビック精製というよりは、アナエロビックナチュラル精製と呼ぶのが正しい呼称です(実際、一皮剥いてからアナエロビックに向かう精製方法も、アナエロビックを経た後、ウォッシュドで果肉を洗い落としてから乾燥に向かう精製方法もあります)
いずれにしても産地の生産者の方々の、「魅力的な美味しい豆づくり」へ向けた飽くなき取り組みには、本当に頭が下がります
そうして生産された生豆のポテンシャルを最大化してお客さまにお届けするのが、焙煎する僕の使命と心得ています
いろどりこーひーは珈琲豆を通して、皆様の心豊かな暮らしに“彩り”をお届けします