2025年1月28日火曜日

No.206_毎回同じ味を作るということ


焙煎において『毎回同じ味を作る』ということは大切なことだと思っています。と、言うより...食に携わるプロとしては当たり前のこと...と。焙煎するたびに味(ヤキ上り)がズレていたのではお話になりません。

一方で『毎回同じ味を作る』ための焙煎手法は?となると、その拠り処となる基準や手引きとして確立、公開されているものはこの世にありません。世の焙煎人はそれぞれの手法で焙煎をしているわけです。そういう意味では僕も他の人がどの様に焙煎しているかは知りません。

実はこの店を始める以前(コーヒーとは縁の無いサラリーマン時代です・笑)、『焙煎する』ということに興味を持ち始めて、それに関わる本もいろいろ読んだりしていました。確かにそこには焙煎手法の概要が(触り...程度ですが)書かれてはいました。『変化する豆の色を見て』とか、『豆の香りの変化を頼りに』とか、『爆ぜる音を頼りに』とか...でも僕としてはピンと来なかったですねぇ...(焙煎なんて一度もやったことがないのに...苦笑)

そんなことで『毎回同じ味を作る』、『美味しい豆を作る』ことができるのか?と

結果的には当時、お気に入りで行きつけの豆屋さんのオーナー経由、ある師匠に辿り着いたのですが、その師匠から指南を受けたのは、窯内温度と豆投入後の経過時間をコントロールする手法でした。これにはすごく合点が行きました。

店を始める時点で大枠の考え方を学びましたが、今やっている手法に辿り着くまでには自身で仮説を立て、試行、そしてまた仮説を立てて試行、それをずっと繰り返して来ました(この辺はつぶやきNo.204でも少し触れましたが、焙煎記録表も数十版、更新してきました)。

この仮説と試行...結構面白いので、また、別の機会にご紹介させて頂きますね

 

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2025年1月21日火曜日

No.205_“酸”と“酸味”、そして酸のキャラとボリューム


酸と酸味。似た言葉ですが、僕はそれぞれ違う意味合いで解釈しています。

(ここからは僕の解釈なので異論はあろうかと思いますが...)“酸味”というと、味覚表現の中の酸っぱさの度合い、またはその強弱を表す時に使う単語のように感じています。

方や“酸”は、食べ物、飲み物の美味しさを形作る(左右する)重要な風味要素。と、捉えています。

コーヒー豆は果実の種子(タネ)ですので、どの豆も少なからずや、酸を含んでいます。

そしてそれぞれのコーヒーが持っている酸は、コーヒーノキの品種の違いや産地の違いに応じて、千差万別です。(つぶやきNo.160ではこの酸の育まれ方について、もう少し詳しく触れています)

その違いがコーヒーの多彩、且つ異なる風味をもたらしてくれるのです。端的に言うと【酸のキャラ × ボリューム = そのコーヒーの個性的な風味】の様な感じです。

幾つか具体例を挙げてみると、エチオピア、ケニア、グァテマラ、タンザニア辺りの豆の酸はとてもユニークな(個性的な)キャラを持っていて、且つボリュームもあります。エチオピアのゲデブナチュラルの酸はアプリコットが持つ酸に近いキャラ、モカハマの酸はベルガモットが持つ酸に近いキャラ、ケニアの酸はブラッドオレンジが持つ酸に近いキャラ...の様に。

方やブラジルの豆の酸はそもそも質がとても柔らかく、マイルドでボリュームも控えめです。それ故、淹れたコーヒーもとても優しく飲みやすく、まろやかコーヒーの代表と言えます。

お店にお越しになるお客さまからも『酸味が苦手!』、『酸味の少ないコーヒーはどれですか?』とお問い合わせ頂くことがよくあります。店では2種類の試飲コーヒーをローテーションでご提供していますが、前述のエチオピアのコーヒーを試飲頂くと、その様なお問い合わせを頂いた方も『わぁ!フルーティ!美味しい!』と驚かれます。そこで『エチオピアのコーヒーはこのラインナップの中でも酸のボリュームがしっかりある方なんです』とお伝えすると更にびっくりされます。『全然、酸っぱくない!!』と。

そうなんです。『酸のボリュームがある』と言うことと『酸っぱい』と言うことは決して同義ではないと言うことなのです。

この店をやっている目的の一つに「コーヒーの美味しさをお伝えしたい!」と言うのがありますが、もう少し噛み砕くと『決して酸っぱさの度合いではない、質の良い、魅力的な酸のキャラを是非是非お伝えしたい!』これが僕の切なる思いなのです。^ ^

 

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2025年1月14日火曜日

No.204_同じことを繰り返していると発見は無限大



焙煎は毎朝数窯ヤキますので1年だと何百回とヤイています。これを聞くと「同じこと毎年何百回もやってて、飽きないのかね?」と思われちゃうかもしれませんが(笑)、これが飽きるどころか楽しいんですね...😅

「楽しい」のニュアンスはなかなか伝わりにくいかとは思いますが、「やってて面白い」というか、「取り組み甲斐がある」というか、...そうそう...毎回は大袈裟かもしれませんが、毎月いくつもの新たな発見というか、取り組みどころが現れます。

焙煎中はオリジナルの焙煎記録表にいろいろな書き込みをしながら進めるのですが、焙煎中に前述の“気付き”がちょくちょく現れますので、都度それを欄外にサッとメモって、数個貯まったら、その項目を反映させた記録表に更新しています。

この記録表の更新、開店以来という意味では既に数十版目になります。焙煎記録表は1回の焙煎につきA4サイズの紙1枚を使います。そして1回の焙煎が終了するとその用紙は書き込みで一杯になります。この記録表は開店以来全て保管していますが、開店当初の記録表を見返してみると、内容も書き込みもスカスカで、今ではそのフォーマットで焙煎に挑むのは、ちょっと怖いですね(苦笑)

そこで本日のテーマが「同じことを繰り返していると発見は無限大」となった訳です。

多分このことは“食事を作る”、“掃除をする”、”洗濯をする“と言った日常生活の中にも、スポーツ選手、芸術家、いろいろな職種、仕事にも大なり小なり当てはまるのではないでしょうか?そして会社員の日常業務にもその要素はあるのではないかと...(自身の会社員時代を思い起こしても、そんな繰り返しでした)

発見が無限大である故、その探究・探求も無限大です。

 

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2025年1月7日火曜日

No.203_辻井伸行さんの音色(ねいろ)の様なコーヒー豆をお届けしたい


2025年が明けました。本年もどうぞよろしくお願いします。

年が明けるというのは色々気持ちも新たになるものですが、“思い”としてはそう変わるものではないですね...『お客さまに必要とされる店になりたい』、開店当初掲げた“思い”は今もそのままです。そして今まで同様『ありがたいなぁ』の思いに包まれた1年を過ごして行けたら、今年も素敵な1年になりそうです。

そんな中、今回の唐突なテーマ『辻井伸行さんの音色(ねいろ)の様なコーヒー豆をお届けしたい』ですが...

実は先月、辻井伸行さんのソロリサイタルを紀尾井町ホールで拝聴してきました。

辻井さんのソロ演奏を鑑賞したのはこれで2回目になりますが、辻井さんが織りなす音色(ねいろ)は本当に綺麗で、澄み切って、優しくて大好きです。

今回のメイン演目は、ベートーヴェンのピアノソナタ第29番、通称『ハンマークラヴィーア』です。

辻井さんは昨年4月ドイツ・グラモフォン社とアルバム制作に関わる専属契約を結びました。グラモフォン社は、125年の歴史を持つ世界最古のクラシック音楽のレコードレーベルです。そして昨年11月29日に全世界同時に発売された辻井さんのグラモフォン デビューアルバムに収録されたのがこのハンマークラヴィーアです。このハンマークラヴィーアは辻井さんが2009年ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝した際、セミファイナルで演奏したことでも知られます。(その映像がYouTubeにありました)

当日はこのハンマークラヴィーア演奏の前段にドビュッシー、プロコフィエフの曲の演奏もありましたが、ドビュッシーの曲の演奏中に一時演奏が中断され、辻井さんが立ち上がり、場内に向けお話しされる出来事がありました。

(一言一句は異なるとは思いますが主旨としては...)『先ほど演奏中に弦が1本切れてしまいまして...僕もこのままでは集中して演奏できないものですから、調律師の方に直して頂こうかと思います。大変申し訳ありませんが、少々お待ちください』といった説明でした。

そして辻井さんは一旦ステージを離れ、調律師の方が一人、弦と調律の道具を持って登場し、(言葉は不適切かもしれませんが)衆人環視の様相で観客全員が固唾を飲んで見守る中、修復が進みました。そうして15分間くらい経ったでしょうか、調律師の方が作業を終えてステージの裾に引き上げる際は、思わず場内の全員が拍手を送りましたが、調律師さんもあの様な拍手喝采を浴びるのはなかなか無い経験だったのではないでしょうか...(苦笑)

そして再び辻井さんが登場。演奏再開に先立って『みなさま大変お待たせしました。僕もびっくりしましたが、これも生の醍醐味ということで、これからの演奏もお楽しみください』と挨拶があり、場内割れんばかりの拍手に包まれました。思いがけないハプニングでしたが、辻井さんの肉声も聞け、むしろ貴重な体験をさせてもらいました。ピアノは弾く(ひく)と書きますが、弾く(はじく)とも読めるこの字を使うのに改めて合点がいった次第です...

辻井さんの演奏は、速弾きの超絶テクニックの場面でも、激しいとか荒々しいといった形容は似つかわしくなく、あくまでも音色の綺麗さが心を揺さぶってくれる、そんなすごい迫力が押し寄せます。

リサイタルの日がクリスマス前だったということもあり、アンコールでは坂本龍一さんの戦場のメリークリスマスを演ってくれましたが、ピアノってこんな澄み切った音が出るものかと、思わずグッときてしまいました。

そして全ての演奏が終わった時、なんとも言えない幸せな気持ちに包まれました。

それと同時に辻井さんの奏でる音色(ねいろ)、演奏を形容するにふさわしい『綺麗な、澄み切った、優しい、幸せな気持ちになる...』そんなコーヒーをお客さまにご提供出来たら、そしてお客さまがそう感じてくれたら、なんて素晴らしいことだろう...職業柄、そんな思いがフッと浮かんでしまいました。😅

と言うわけで、そんな思いを胸に、2025年がスタートしました。

本年もどうぞよろしくお願いします。


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