2025年6月24日火曜日

No.227_美味しさってなんだろう


「美味しさってなんだろう?」

コーヒー豆屋を営む中で時々、そんなことを考える機会があります

例えば...コーヒーが苦手とおっしゃる方から「コーヒーは苦くて」とか、「酸っぱいのがダメで」といったお話を伺うことがあります。また、いろどりこーひーに初めてコーヒー豆をお求めにいらっしゃるお客さまからも、「苦味(酸味)が少ないコーヒーはどれですか?」といったお問い合わせをたまに頂きます

確かに「苦い!」、「酸っぱい!」は、どちらも美味しさを表現するときに、使わない形容詞ですね。(苦味、酸味は、甘味、塩味、うま味と並んで、基本味「5味」で美味しさを形作る上で重要ですが、(焦げ感等)過度な苦味、(質の悪い)酸っぱさは風味を損ないます)

何かの本で読んだことがありますが「ヒトには(生き物と言う括りでも一緒だと思いますが)、体に毒になるものを口にしないという生存本能が備わっている」と

確かに動植物でも外敵から逃れるため身に毒を纏う、外敵はそれでやられないよう味覚、嗅覚で避ける、のような構図はよくありますね

おっと、話がずいぶん拡散してしまいました...

話を戻すと、コーヒーにおいても過度な「苦い」、「酸っぱい」は、ヒトの生存本能が拒絶する世界(味)なので、それはあってはならないものだと考えています。すると「苦く無いコーヒーは美味しいのか?」、「酸っぱく無いコーヒーは美味しいのか?」となると、これは明らかにNOです。仮に過度な苦さ、酸っぱさを“違和感のある味”と表現すると、「違和感のある味が無いだけで、美味しいとはならない」ということです。美味しい!と感じるにはさらに、“心地よく感じられる風味”が備わっていなくてはなりません

コーヒー豆の世界でも生豆中の成分であるクロロゲン酸が焙煎によりクロロゲン酸ラクトンに化学変化してコーヒーらしい魅力的な苦味を作り出したり、質の良い酸がコーヒーの華やかさ、明るさ、心地よい余韻等のポジティブな風味を生み出します

実は今回、このようなテーマについて書こうかな...と思いたったのも、先日の食事体験がきっかけとなっています。と言うのも、「この体験は、コーヒーの世界にも通じる話だなあ」と感じたからです

ある知人から「ここは美味しいから是非行ってみて!」と勧められ、月島にあるエゾ鹿ジビエ料理店“まくら木”さんを訪ねました。そしてエゾ鹿肉の生ハム、カルパッチョ他色々頂きましたが、とりわけエゾ鹿肉のしゃぶしゃぶが秀逸でした。野菜はモヤシとレタスだけのシンプルなものでしたが、鹿肉の甘さに包まれた旨みを存分に味わうには実にぴったりでした。僕もこの年齢になったせいか、牛肉は数口は美味しいなぁと感動しても、やがてこのくらいでもういいかな...と箸が止まってしまいます(残念!)。でも、ここの鹿肉しゃぶしゃぶはどんどん箸が進みました(笑)。赤ワインも実にドンピシャマッチして、本当に至福の時間を過ごさせて頂きました

店の方とも少しお話しする機会がありましたが、長年お付き合いしている北海道の信頼出来るベテラン猟師さんに捕獲をお願いしているそうで、その方の捕獲から絞め(血抜き)までの手順が抜群なのだそうです。そのお陰で良い素材(肉)を扱うことが出来ていると。そこにシェフの調理の腕前が重なることでこのような美味しい料理が出来上がっているんだ!と納得でした

翌日、このお店は巷でもさぞかし評判のお店なんだろうなと思って、ネットの口コミをチラッと眺めてみたところ、異口同音に美味しい、美味しいと書かれていましたが、枕詞で「匂いも全く気にならず」と言うのが多かったですね...

これを見て「違和感のある味がない」の大前提の上に、「心地良く感じられる風味がある」ことが整って、サイコーの美味しさというものが出来上がるんだなぁと改めて思いました

珈琲豆の雑味のない美味しさ創り(焙煎)の世界と同じだなぁと...

 

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2025年6月17日火曜日

No.226_産地で異なるコーヒーの風味傾向


いろどりこーひーでは、様々な産地のコーヒー豆を扱っていますが、時折お客様から「この豆、なんだか明るくて果物みたいですね」とか「こっちは飲みやすくて、優しい味」といったお声をいただくことがあります

実はそれ、コーヒー豆が育った“ふるさと”の違いによって生まれた風味なのです

「国ごとの味の違い」...なんて言い方をすることもありますが、それが起こるのも「その国が地球上のどんな場所(主に緯度)で、どんな地形のところか」が、味の傾向を大きく左右します

中でも、とくに大きな影響を与えるのが「標高」です。標高が高い場所ほど、昼と夜の気温差(寒暖差)が大きくなります。すると、コーヒーの木はゆっくりと実を育んでいくようになります。その“ゆっくり”の中で、果実の中にはしっかりとした酸が育ち、それが「フルーティ」「フローラル」「ジューシー」といった、個性的で華やかな風味につながっていくのです

因みにコーヒーの木は開花後、数ミリの小さな緑の実を結実します。その後その実はゆっくり成長し、やがて黄色からオレンジ、そして真っ赤に熟していきます。こうして開花から収穫までには8〜9ヶ月もの月日が掛かります

そこで高地の産地は例えば以下のような国々です:

  • エチオピアやケニア、タンザニアなどアフリカの国々

  • 中米の中でも、標高の高いグァテマラなど

こうした場所の豆は、まさに「香りを楽しむコーヒー」とも言えるような華やかさや、果実のような酸が魅力です。(「酸」と言っても決して酸っぱさの度合いではなく、これら質の良い酸がそれぞれの魅力的な風味を演出します)

一方で、標高がそこまで高くない産地――たとえばブラジルなどは、気候も穏やかで昼夜の寒暖差もさほど大きくありません。コーヒーの実も健やかに育ち、収穫までの時間も比較的短くなります。そのため、酸の成分がじっくり醸成される時間も少なめ。その結果、まろやかで、やさしく、落ち着いた風味になる傾向があります。「酸味がちょっと苦手…」という方にも、親しみやすい味わいです

つまり、コーヒーの特徴的な味は——

産地ごとの「気候」や「地形」、「育ち方」そのものの違いが映し出されているんですね。これはワインの世界で言われる“テロワール(気候や土壌など育った環境の個性が味の個性につながっている)”と同じで、植物(果実)としてのコーヒーの物語が、カップの中にそのまま込められているとも言えます。そんなロマン(ちょっと言い過ぎかな...)が一杯のコーヒーには詰まっているんですね

今日のコーヒーは、どこの国?、どんなところで育ったんだろう?...そんなことにフッと思いを寄せるのも時にはイイですね。ふとした一杯がまるで旅するひと時に誘ってくれる——コーヒーでぜひ、色々な旅をお楽しみください^^


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過去の店主のつぶやき『No.77_テロワールをお届けしたい』にも今回のテーマに関連した記載がありますので、宜しければご参照ください

2025年6月10日火曜日

No.225_長嶋茂雄さん


長嶋茂雄さんがご逝去されました

本当に残念で、本当に悲しくて、心にぽっかり穴が空いたような寂しい気持ちでいっぱいです

実は、この店主のつぶやきで“長嶋茂雄さん”の表題は2度目です。前回はNo.22(2021/7/25)、東京オリンピック開会式生放送中、不意に長嶋さんを目にした時の感涙を書かずにはいられませんでした。長嶋さんのことを50年以上に亘り、大好きで居られる理由はその回に記載したので、ここでは割愛しますが、その大好きは今でも変わりません

6/3、長嶋さんの訃報を耳にして以降、テレビの追悼番組を視聴したり、2016年刊行の『野球人は1年毎に若返る』を改めて読み返したり、この1週間は長嶋さんを偲んで過ごしておりました

番組を何本も観た中で改めて感じたのは、「長嶋さんは生涯を通して、ずーっとファン(長嶋ファン&ジャイアンツ ファン)の方を向いて生きてきたんだな」と言うことです。もちろんその一環として、絶対勝つという強い意志とか、血の滲むようなトレーニング、ジャイアンツ愛、走攻守全ての面での華やかでかっこいい、時にユーモラスなパフォーマンス等々あるとは思いますが、その根っこは、「すべてはファンのため」だったんですね。長嶋さんは後年、「野球は人生そのもの」とおっしゃっていました。そこには“野球が好き”、もっと言うと「ファンを喜こばせられる“野球が好き”」の思いを貫き通した89年の人生だったのではないでしょうか

現役時代の長嶋さんは、血の滲むようなトレーニングを陰でしていましたが(オフシーズンには山籠りも)、それを報道されたり、人目に触れることを嫌っていたそうです。後年それに関する質問を受けて「そう言うことろを見せるのは嫌でしたねぇ...ゲームで魅せるのがプロですから」

一方、2004年脳梗塞に倒れた以降、これはトレーニングではないかと思われるほどのリハビリに取り組む姿が度々映像で流れていましたが、これも後年「現役時代練習風景を撮られるのは嫌でしたが、リハビリ風景はどうぞどうぞと撮ってもらったんです。全国に200万人を超えるとも言われるリハビリに取り組んでおられる方々に少しでも勇気を与えられたらと思いまして」

現役時代、監督時代はひたすらファンのため、そして後年もリハビリに取り組んでおられる方々のためにと、長嶋さんの心根にはずっとひとのため(喜ばせたい、元気付けたい)と言う思いがあったんですね。だからこれ程までに人を魅了し、僕もゾッコンだったわけです...

僕にとって長嶋さんは永久に不滅です!これからも変わらず長嶋さんは、僕の心に生き続けます

 

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2025年6月3日火曜日

No.224_アラビカ種とカネフォラ種(ロブスタ種)


今回はコーヒー豆の品種の話ですが、先ず最初にお断りすると、「お客さまにおかれましては、どうか品種のことなど気になさらず、ただただ、お気に入りのコーヒーをお楽しみくださいませ」...と言うわけで、今回の話題は、「そんなことがあるのね」程度にサラッと読み流して頂けると幸いです^^

世に流通しているコーヒー豆の品種はアラビカ種(約6割)とカネフォラ種[通称ロブスタ種(※ロブスタ種はカネフォラ種の主要な変種)](約4割)に大別されます。(他にリベリカ種と言うのもありますが、ほぼお目に掛からないのでここでは割愛します)

以下にその特徴を列記してみます(🔴がアラビカ種、🔵がカネフォラ種[通称ロブスタ種])

・起源:🔴エチオピア、🔵コンゴ

 →それにしても最初に「この実の種を焼いてみよう、そして粉に砕いて、湯をかけて、真っ黒な液体(コーヒー)を飲んでみよう!」と試みた人たちには感服致します^^

・適した標高:🔴昼、高温になり過ぎないように、且つ昼夜の寒暖差確保のためにも高地(800m〜2,000m)、🔵低地(0〜800m)

・適した気温:🔴暑からず寒からず(年間平均15℃〜25℃)、🔵暖かい〜暑い可(年間平均25℃〜30℃)

・適した降水量:🔴少な過ぎず多過ぎず(年間1,200〜2,000mm)、且つ雨季乾季があることが望ましい、🔵多雨(年間2,000mm以上)

・適した土壌:🔴排水性が良く、且つ肥沃な火山性土壌、🔵土壌適応力が高い(幅広く可)

・適した日射:🔴直射に弱く山岳だと東斜面が最適、シェードツリー(日陰を作るための木)を添え植えすることも、🔵直射可

・風味特徴:🔴フルーティな酸、甘さ、香り、口当たりも優れている、🔵酸味ほぼ無し、苦味強く土っぽさ、ウッディ、口当たり重い

・耐病性:🔴弱い、🔵強い

・価格相場を決める取引所:🔴ニューヨーク商品取引所、🔵ロンドン商品取引所

総論としては🔴アラビカ種は風味特性に優れるが耐候性他、デリケートで育成が大変、方や🔵カネフォラ種(ロブスタ種)は、環境適応力が高く育てやすいが、如何せん風味特性が劣り、主にインスタントコーヒー、缶コーヒーの材料として使用される

因みにいろどりこーひーで扱っている豆は全てアラビカ種です

コーヒー栽培においても近年の地球温暖化の影響を切実に受けているようで、旱魃や暑過ぎの為、不作や作付けの減少(転作、離農等)を招いているようです。そしてそれがコーヒー豆価格高騰の一因にもなっているようです

その対策のため、産地では耐候性を高める品種改良にも取り組んでいるようですが、耐候性が高い品種との交配は風味の点でやはり在来種には及ばなかったり、また、その効果が収穫で確認出来るのも試行から3〜5年も要する等、一朝一夕に打開していくことはなかなか困難なようです

そんな状況下でも今のところ、いろどりこーひーでは何とか上質の生豆を仕入れることが出来ていますので、産地の方にも、インポーターの方にも敬意をもって心より感謝致します。そしてそのような大切な生豆ですので、丁寧に焙煎して、お客さまにお届けしたいと思っています

今日も一杯のコーヒーに感謝を込めて!

 

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