2025年9月30日火曜日

No.241_お客さまがご利用しやすい店を目指して


いろどりこーひーは何の店?と聞かれると、大雑把な括りで言うと“自家焙煎珈琲豆店”といった表現になるのでしょうか...

ただ、僕自身はこの“自家焙煎珈琲豆店”と言う呼び名はあまり好きではありません。何だか漢字ばかり8文字も並んでいて堅苦しい印象ですし、珈琲豆専門店?みたいな捉え方をすると、ちょっとマニアックな、限られた人々のお店というのか、気軽にふらっと入るには敷居が高いというか...

僕自身がありたいと思っている“いろどりこーひー”の姿は、前述とはむしろ反対のイメージです。お客さまの暮らしの一部になれるような、「ご利用しやすいお店」でありたいと思っています

実は開業準備中、店名を決めるのにあれやこれやと1ヶ月くらいは思慮していました。そんな過程でも早々に横文字やカタカナ店名は排除し、柔らかなイメージのひらがな書きの店名にしたいと考えていました。そうこうしているうち“いろどりこーひー”の名が閃きました。因みに店名の字体やそのロゴは20代の女性デザイナーに依頼し、考案してもらいました。とっても素敵な提案を頂き、初見で僕もときめきました(ロゴ誕生秘話はコチラ

今回の写真にもありますが、いろどりこーひーの外観は透明ガラスの引き戸が8枚連なっていて、店の中が丸見え(笑)。開業にあたって何件か物件を見ましたが、この開放的な外観と小学校正門真向かいという立地も気に入り、即決しました。入口の扉は(夏冬の冷暖房期は閉めていますが)春秋の中間期はいつも開け放っています

入り口脇にはプランターがあり、お客さまをお花🌷でお迎えしたいと思っています(今は通称“フェアリースター”(ニチニチソウ)が満開です)

前述の「ご利用しやすいお店」ですが、イメージとしては「女性おひとりでもお気軽に利用できるお店」です

お客さまがご来店いただいた際には「こんにちは〜」のお声がけのあと、「2種類の試飲コーヒーをご用意しておりますが、お出ししてよろしいですか?」のみ、お声がけしています。そしてこれ以上のお声がけはあえてしないようにしています

というのも僕自身、服やらモノやら何か買いに行った時は、ゆっくり自分自身で見定めたいと思うからです。そんな時、店員の方から矢継ぎ早に説明やら、声がけを頂いたのでは、ゆっくり見定められないなと...

店ではコーヒー豆ごとにその風味の特徴を記した札を掲げていますが、その説明も大きな文字で、ひと文で表現するよう心がけています。それでも読み比べるのは大変だと思いますので、ゆっくり、ゆったりご覧いただきたいと思っています。そしてその上でご質問いただいたときは、もちろん丁寧に説明させていただきます

常連の方も多くお越しいただきますが、こちらもむやみやたらと世間話をお声がけすることは控えています。一方でお客さまからいろいろお話し頂くことも多いのでその時は楽しく会話させて頂いています^^ 

というわけで、こんな感じのふわっとした(緊張する必要がない、居心地の良い)お店ですので、どうか気兼ねなくお立ち寄りいただけると嬉しいです。そしてそんなお立ち寄りもコーヒーライフも含めて、お客さまの暮らしの一部になれたら、これほど嬉しいことはありません

 

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2025年9月23日火曜日

No.240_焙煎は“操作技術”だけでなく、“表現力”が問われる営み


店には大きな焙煎機が置いてありますので、ご覧になったお客さまから「あの(焙煎機)の操作は大変そうですね」と、時々、お声掛けいただきます

それに対し「いやいや、操作そのものはシンプルなので、お客さまでもすぐ出来るようなものですよ」とお応えすると、「そんなことないでしょ〜」と...(苦笑)

これ、決して冗談とか、投げやりにお応えしているわけではなくて、本心でそう思っています

当然、何の手解きもなく、焙煎機が操作出来たり、豆がヤケルわけではありませんが、仮にも僕が付いて、こうして、ああして...こうなったら、そうして...とお伝えしたら、多分2週間もあれば、一人で操作出来るようになると思います

一方で...「焙煎機が操作出来る」ということと、「美味しい豆が(安定して、継続して)ヤケル」ということは、また、別の話だと思っています

美味しい豆を(安定して、継続して)ヤクには、焙煎した豆をカッピング(味チェックのようなもの)して、更なる美味しさを引き出すため、「あそこをこうしたらどうなるだろう?」と仮説を立て、次の焙煎で、それを検証(ピンポイントで微細な変化を与えて焙煎し、それをまたカッピング)していく...そんな繰り返し、そんな日々の積み重ねが伴います。(例えば窯から出す温度を1℃変えただけで、マウスフィールにパッと明るさが広がることもあります)

話は突飛な方向へ変わりますが...

例えばヴァイオリンでも、トランペットでもピアノでも、一定のセンスがあって、練習を重ねれば、短いフレーズならば楽譜通りに弾いたり吹いたりすることは出来るようになるでしょう。しかし、それが聴く人を感動させたり、酔わせる音色(ねいろ)かと問われると別問題であるように、焙煎においても決められた操作が出来たとしても、出来上がるコーヒー豆が、お客さまを感動させたり、うっとりさせるかというと別問題...そう思っています

操作は簡単な焙煎ですが、気にかかること、試したいこと、確かめたいこと、突き詰めたいこと...これはやってもやっても、また現れてきて、尽きることがありません

焙煎機操作は“技術習得”の趣ですが、美味しい豆づくりは、“表現”の趣とも言えます

“表現”の趣で焙煎を捉えると、とたんにそれは面白い、楽しい、突き詰めたい世界へと広がります。また、そうして取り組んだ結果はお客さまからの反応として返ってきます

僕にとって、お客さまからの反応が何よりの励みです

それが僕をまた次なる、そして更なる取り組みへと駆り立ててくれます

 

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2025年9月16日火曜日

No.239_アナエロビック(嫌気性発酵)とは


前回のつぶやきNo.238でブラジルイパネマ農園の豆を紹介させていただき、その精製方法は「アナエロビック(嫌気性発酵)」を経ています」とお伝えしました

“コーヒーの新しい精製プロセス”としても注目されるアナエロビック(アナエロビック・ファーメンテーション/Anaerobic fermentation)。今回はそれをもう少し掘り下げてみたいのですが、その前に...「1.精製とは」と、「2.精製プロセスの中での発酵」のお話から始めたいと思います

1.精製とは

コーヒー豆はそもそもさくらんぼの様な果実の種子(タネ)です(豆ではなくて)

その果実から種子を取り出し、焙煎前の生豆(なままめ)と呼ばれる状態にするプロセス(工程)を“精製”と呼んでいます

精製プロセスは、大別するとナチュラルとウォシュドに分けられます(細かくは他にもありますが)

ナチュラルは、赤い実のまま乾燥させた後、脱殻する(種子を取り出す)方法、ウォッシュドは機械でサッと皮を剥いて、水槽に2〜3日漬けた後、果肉を綺麗に洗い落としてから乾燥させ、脱殻する方法です(もしよろしければ、つぶやきNo.24No.213に、もう少し詳しい説明があります)

2.精製プロセスの中での発酵

「コーヒー豆を作るのに発酵の過程がある」というのは、あまり知られていないかもしれません(蛇足ですが...ワイン、チーズ、ヨーグルト、ビールもみんな“発酵食品”ですね)

ナチュラルでは赤い実を乾燥させる初期段階(果肉がまだ柔らかい段階)で発酵が作用します。ウォッシュドでは、水槽に漬けている過程で発酵が作用します

発酵には微生物が作用しますが、その微生物は酸素を利用してエネルギーを生成し、果肉の糖分を分解し、アルコール類(アルデヒド類、香りの成分のひとつ)や有機酸(クエン酸やリンゴ酸など)化合物を生成し、それが「コーヒーにクリーンで明瞭な風味と香りを与える」ことにつながっています(この発酵が進捗するフェーズはつぶやきNo.214で詳述しています)

さて、ここでようやくアナエロビックのお話ができます

アナエロビックは嫌気性発酵とも言われ、敢えて酸素が無い状況を作り出し、そこで発酵を作用させます。具体的には果実をステンレス製の逆止弁付き(エアは抜けるけど入らない)密閉タンクに詰めて、発酵させるのですが、最初は果実の隙間に多少空気(酸素)が残っていますので、発酵初期は好気性の微生物も作用します。しかしやがて逆止弁つきバルブを経てガス(二酸化炭素)が抜け、酸素がなくなった密閉状態になり、ここからは無酸素状態で活動できる微生物が活発化します

前述の酸素がある発酵(好気性発酵=エアロビック発酵)はアルコール類、有機酸化合物が生成されると記しましたが、無酸素状態(嫌気性発酵=アナエロビック発酵)では、微生物はエネルギーを得るために果皮や果肉の糖分を分解し、エタノール、乳酸、エステル化合物(フルーツのような甘い香りの元になる成分)を生成し、これらが種子(コーヒー)にフルーティー、且つ複雑でユニークな風味、香りを与えることとなります

アナエロビックとはどんなものか知っていただきたく説明を始めたのですが、物質の話をし始めて、却って難解になってしまったかもしれません...^^;

要約すると「発酵時、酸素が有るか無いかで、作用する微生物も異なるので、結果的に生成される物質も異なり、出来上がる豆の味、香りも異なる。こうしてアナエロビック(酸素が無い状況下での発酵)を経たブラジルイパネマ農園の豆の「黄桃やプラムのようなネクタリン感、明るくジューシーでトロリとした甘さ」が生み出された...といったところでしょうか

ちなみにアナエロビックを経た果実は、ナチュラルのように天日乾燥され、脱殻される工程に向かいますので、アナエロビック精製というよりは、アナエロビックナチュラル精製と呼ぶのが正しい呼称です(実際、一皮剥いてからアナエロビックに向かう精製方法も、アナエロビックを経た後、ウォッシュドで果肉を洗い落としてから乾燥に向かう精製方法もあります)

いずれにしても産地の生産者の方々の、「魅力的な美味しい豆づくり」へ向けた飽くなき取り組みには、本当に頭が下がります

そうして生産された生豆のポテンシャルを最大化してお客さまにお届けするのが、焙煎する僕の使命と心得ています

 

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2025年9月9日火曜日

No.238_ブラジルイパネマ農園アナエロビックナチュラル


ブラジル イパネマ農園から届いた“スペシャルティの最高峰”ともいえる新しいロットをご紹介します

 黄桃やプラムのようなネクタリン感

 明るくジューシーでトロリとした甘さ

いろどりこーひーでは、エチオピア・ゲデブ ナチュラルが、アプリコット、ピーチ系のストーンフルーツ感を持っていますが、そちらの風味を「果実の透明感」と称するならば、このブラジルイパネマ農園アナエロビックナチュラルはジャムやコンポートを思わせる濃厚さで、その風味の複雑さ、奥行き感は「果実のコク」を味わう!というような魅力に溢れています

ここで産地のイパネマ農園(Fazenda Rio Verde/Ipanema Coffees)をご紹介します

ブラジル南東部ミナスジェライス州の丘陵地に位置する世界最大規模(約6000ha)、且つ「次世代型の農業モデル」構築を進めている最先端のコーヒー農園です。その最先端の取り組みは、「コーヒー農園Labo」とさえ称されている農園です。(Laboは、Laboratory:研究所、実験室の意味)

この農園はブラジルの中では比較的高地(標高900m〜1,300m)に位置し、肥沃な大地も相まって、良質なコーヒー豆を生産するのにとても適したエリアです

広大な農地は、標高、方位、日照、風向きの違いに応じて、グリーブス(Glebes)と呼ばれる小さな区画に分けられ、それぞれの環境、条件に適した品種を栽培し、「テロワール(自然環境がもたらす個性的な味わい)」を最大限に引き出す取り組みが続けられています(これをマイクロロット化といいます)

次にイパネマ農園で行われている最先端の取り組み(ドローン、GPS、AIテクノロジーを駆使した生育、生産管理)の一端をご紹介します

マルチスペクトルカメラ搭載ドローンを定期的に飛ばし、コーヒーの木の葉の反射光ほかを測定。樹木の健康状態、乾燥状態、病害、栄養不足などを色分けしたマップで可視化(植生解析)。GPS /AIを駆使した選択的灌水、施肥。収穫時期は上空からの観測で熟度の違いをマップで可視化。それぞれの区画で完熟実をタイムリーに収穫。これらの情報、履歴は、細分化された区画位置をGPSタグ付け化し、完全なトレーサビリティが可能。また、GPS付き農機(トラクターなど)の作業エリア、稼働状況をタイムリーに把握し、コントロール。これにより効率的かつ高品質の栽培管理を推進

他にもいろいろあるのですが、これだけでも「コーヒー農園Labo」といわれる所以が理解できます。僕としてはこの豆のテストサンプルを口にした時の衝撃(驚きの味わい)があったので、その後知ったこのような取り組みも、「なるほど、そういうことだったんだ!」とストンと合点がいきました

そして今回ご紹介する“C6”と呼ばれる区画は、数ある区画の中でも「Premier Cru(プルミエ・クリュ)」と呼ばれる特別区画で、そこから生まれたこの豆は、本当にスペシャルな風味を体験させてくれます

生豆は通常、麻袋(その中はグレインプロと呼ばれるポリエステル素材の袋に入った二重構造)で輸入されますが、Premier Cruは真空パックされ、より慎重に、大切に出荷され、そして店に届きます(今回の写真はその箱のラベルです)

前述の「黄桃やプラムのようなネクタリン感、明るくジューシーでトロリとした甘さ」が生まれるには、精製方法がアナエロビック(嫌気性発酵)を経ていることも大きく寄与しています。今回は、紙幅も尽きてしまったので、次回、このアナエロビック(酸素を遮断する発酵の秘密)を、もう少し掘り下げてご紹介させていただきます

世界的にも注目を集めるイパネマ農園。その背景にある徹底した区画管理と革新的な精製技術がこの一杯のコーヒーに詰まっています。一般的なブラジルコーヒーのイメージ ――ナッツやチョコのような穏やかな甘み――とは一線を画す、驚きに満ちた一杯です

日常のコーヒータイムにブラジルの豊かな自然とイパネマ農園の挑戦を感じて頂けたら嬉しいです(なお、入手できた生豆が少量なものですから、期間限定でのご提供になります)

 

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2025年9月2日火曜日

No.237_焙煎の進行コントロールは伴走するように...


このつぶやき『No.235_丸の内線のCBTC(無線式列車制御システム)と焙煎』の中で、焙煎の進行管理の肝は「滑らかな制御」というようなことを書きましたが、その後も「何とかこの時の心持ち、ニュアンスをしっくりお伝え出来ないかなぁ…」と考えていました

するとフッと“マラソンの伴走者の姿”が浮かびました

その姿はテレビで何度か見たことはありますが、少しだけ“伴走者”について調べてみました

伴走とは走者のそばについて一緒に走ることを言います
特にブラインドマラソンにあたっては、伴走者は障がい者ランナーと一緒に走り、視覚障がい者の目となり方向を伝えたり、障がい物を避けたり、また走路、ペースの誘導、タイムの記録等の役割があります。 伴走時、障がい者ランナーと伴走者を繋ぐものは“きずな”と呼ばれるロープです。伴走に際して、伴走者は助力(引っ張ったり、押したり)を与えてはいけません(日本ブラインドマラソン協会HPより)

伴走者のことを調べていて、その役割がとっても多いことに驚きました。その手法、テクニックはもちろんですが、伴走者は何より「ランナーと心を通わせて」というところが心に響きました

マラソンは全体の中でペースを作っていくこと(守ることではなく)が、とても重要なのだと感じています。全体の中での配分もあると思いますし、上り坂、下り坂、追い風、向かい風、いろいろな条件が変わる中で、最適解を導く(ゴールタイムを短縮する)ために

焙煎はマラソンと違って争う相手はいませんが、それを除けば、ペースを作っていく(緩急定められたペースに合わせる)点においては、マラソンに共感するところがたくさんあります

どちらかというと焙煎機そのものはランナー、僕自身は伴走者のような心持ちです

ペースが早過ぎれば、(計画値より火力を控えて)緩くするように促し、遅過ぎれば(計画値より火力を上げて)ペースを上げるよう促すのですが、それが伴走者の心遣いのように、付かず、離れず、阿吽の呼吸で寄り添い、ランナー(焙煎機=豆)の走行の妨げにならないよう(無理に引っ張らず、押さず)、心を通わせ、そーっと導く…

その逆でペース(温度緩急)に合わせるのに、調整を入れ過ぎると、その間、カロリー過多、過少が発生し、ヤかれる豆は、どこかストレスを抱えた、“最高の美味しさ”というパフォーマンスを発揮出来ない豆になってしまうのです

今日も心を通わせ、優しく、そーっと...

こうして甘さに包まれた、まろやかな美味しさ溢れたコーヒー豆が誕生するのです

 

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