2026年7月28日火曜日

No.284_コーヒー産地 “🇧🇷ブラジル”



これまで「コーヒー産地シリーズ」として、「No.231_コロンビア」、「No.232_エチオピア」、「No.246_インドネシア」をご紹介してきましたが、今回は世界最大のコーヒー生産国、ブラジルです

ブラジルは南アメリカ大陸の約半分を占める広大な国で、日本のおよそ22倍の国土を誇り、人口も約2億1千万人を抱える大国です

コーヒー産地は主に南東部から中西部に広がり、標高700〜1,300mほどの高原地帯に農園が点在しています。コロンビアやエチオピアのような険しい山岳地帯とは異なり、なだらかな丘陵と広い農地、そして乾季と雨季がはっきりした気候が、ブラジルならではのコーヒー栽培を支えています

コーヒーがブラジルに伝わったのは1727年といわれています。その後、ヨーロッパでコーヒーの需要が高まるにつれ栽培面積は急速に拡大し、1920年代のピーク時は世界のコーヒー生産量の約8割を占めていたこともありました。そして現在でも世界全体のおよそ3分の1前後(年の作柄により変動)を生産する世界最大のコーヒー大国です

主な産地はミナスジェライス州で、国内生産量の約半分を占めています。その中でも「スル・デ・ミナス」は甘みと酸味のバランスに優れ、また「セラード・ミネイロ」は乾季がより明確で品質が安定しています。同じブラジルでもチョコレートやナッツを思わせる甘みなど、産地によって表情は実にさまざまです

ブラジルの大きな特徴は、世界最大という規模だけではありません。広大で緩やかな地形を生かし、大型機械による収穫が行われるなど、生産効率の高さでも世界をリードしています

一方、近年はイパネマ農園のようにGPSやドローン、AI、気象データを活用した栽培管理や、小区画ごとの栽培・発酵技術にも力が注がれ、「大量生産のブラジル」から「高品質なスペシャルティコーヒーのブラジル」、さらには「スマート農業(精密農業)」の世界的トップランナーへと大きく進化、そして深化を遂げています

加えてブラジルでは、大学や研究機関、生産者が連携し、新しい品種の育成や病害虫対策、栽培技術の研究も盛んに行われています。こうした積み重ねが、今日の高品質なブラジルコーヒーを支えています

以前のブラジルコーヒーは、「ナッツやチョコレートのような穏やかな甘み」、「ブレンドの土台となるコーヒー」という印象が強かったように思います。もちろん、その魅力は今も健在です。しかし最近では、品種の選定や発酵技術、精製方法の進歩によって、ベリーやピーチ、パッションフルーツを思わせるような、驚くほど華やかな風味を持つスペシャルティコーヒーが数多く生まれています

いろどりこーひーでも、ブラジルは開店以来ずっと大切に扱ってきた産地です

ちなみにブラジルの豆は比較的柔らかく、火の通り方に素直な一面があるため、焙煎人の意図がダイレクトに風味に表れやすい、焙煎していて非常に面白い豆でもあります

ブラジル・スル・デ・ミナスは穏やかな甘みを楽しめる豆で、開店以来の定番人気コーヒーです。また、過去にはブラジル・ハニー(パルプドナチュラル精製)やイパネマ農園(アナエロビック精製)、そして現在はカルモナチュラル(ナチュラル精製)と、様々な精製方法の豆をご紹介させていただき、それぞれお客さまにご好評いただいてきました

そして今年もイパネマ農園の新たな区画のニューロットが入手できましたので、9月頃にご案内させていただく予定です。このサンプルをカッピングしたとき、「これは!」と、僕自身が衝撃を受けた豆ですので、お客さまへご案内できる日が楽しみでなりません

生産国のことを知ることは、コーヒーを飲むうえで必ずしも必要なことではありません。とはいえ、その一杯が育まれた土地の風景や、人々の知恵や挑戦に少しだけ思いを巡らせるだけで、いつものコーヒーが少し違って感じられたりもするものです

「ブラジル」と一言でいっても、その味わいは実に多様です。ぜひ、それぞれの個性を楽しみながら、お気に入りの一杯を見つけていただけたら嬉しいです

 

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2026年7月21日火曜日

No.283_サグラダ・ファミリアと外尾悦郎さん

 


先月、スペイン・バルセロナのサグラダ・ファミリアが、大きな節目を迎えました

イエスの塔の外観が完成し、その完成を祝う式典が行われたのです

2026年6月10日。その日は設計者アントニ・ガウディの没後100年の日でもありました。ローマ教皇レオ14世による記念ミサとそれに続く完成式典は、NHKでも中継され、僕も食い入るように見ていました

イエスの塔は2017年にその建設が着手されましたが、ちょうどその年、僕もサグラダ・ファミリアを訪れました。そして、あのとき目の当たりにした感動は、今も忘れられません

外観は最初は遠目から眺め、少しずつアプローチしていく最中、何度も「すごいなぁ!」、「素晴らしいなぁ!」を連発させながら、本当に感嘆しました。ゆっくり外廻りを一周した後、聖堂内に入りましたが、そこへ足を一歩踏み入れ、上を見上げた瞬間の感動は、外観でのそれをはるかに超えるものでした

感嘆した時に「息を呑む」とか、「言葉が出ない」といった表現がありますが、その時ばかりは、息が吸えなくなるほど心揺さぶられました。たぶん1分か2分、微動だにせず、視線だけ少し動かしながら、上を見上げ続けていたと思います

バルセロナでは、カサ・ミラ、カサ・バトリョ、カサ・ビセンス、そしてグエル公園など、他にもアントニ・ガウディの作品、建造物をたくさん巡りました

そして帰国してからも、その刺激や感動が忘れられず、色々調べたり、本を読んだりしていました

すると今度はサグラダ・ファミリアで主任彫刻家・芸術工芸監督を務められている外尾悦郎さんにも、どんどん惹かれていったのです

外尾悦郎さんは、1978年25歳でバルセロナに渡って以来、「生誕のファサード」の女神像を始め、今日に至るまで随所に自身の彫刻を残されています

この機に外尾悦郎さんが、2006年に著した「ガウディの伝言」を改めて読み返してみたところ、初めて読んだ時惹きつけられた観点とはまた異なる思いが湧いてきたものですから、少し、ご紹介させていただきます

それは“石との対話”や、“石と向き合う姿勢”に関わる部分です

「(石を彫りながら)これって、彫って、削っているように見るでしょ?でも違うんです。石にノックしているんです。ノックしながら、このまま進んでいいかい?って石に聞いているんです」

「私にとって彫刻を作っているときの理想は、“石の中に入って、彫っている”という状態です」

「石には石の性質や節理があります。それを何度も何度も失敗しながら体で覚えていくうちに石を見たり、触ったりしただけで、その石が持っている秩序が直感的にわかるようになってきます。そうすると今度は石に導かれるように形を作っていくことができるようになる。その石をどんなふうに削り、どんな構造に利用するのが合理的か、石が教えてくれるように感じられるようになってきます。経験豊富な石工ほど石と戦うのではなく、石に従わなければ良いものはできないと言うことを熟知しているものです」

当日読んだ時は、バルセロナに行くことになった経緯に始まり、そこに定住しサグラダ・ファミリアに捧げた人生、さらにはそこでの数々のエピソード、それら全てを含めた外尾悦郎さんの“生き方”に感銘したものです

ところが毎日焙煎している僕が今これを読み返すとと、なぜか“石を彫る”を、“豆を焼く”に読み替えて、勝手に共感してしまうのです…ちょっと、可笑しいですよね(^^;;

というのも、豆もこちらが「深煎りで(浅煎りで)こんな味にしてやろう」なんて、独りよがりで焼けるものではないからです

豆と対話しながら、あるいは豆の中に入っていきながら、豆に導かれるように焼いていくことができると、美味しいコーヒー豆が出来上がるんですね

ちょっと稚拙な表現ですが、豆が「こうしてくれると、ぼくは最高に美味しくなるんだよ〜」という声に、五感を研ぎ澄まして耳を傾けるようにしています

ところで、イエスの塔の外観は完成しましたが、その内観や、栄光のファサードは、まだまだ建設が進行中です

これらが完成の暁には、ぜひもう一度、サグラダ・ファミリアを訪れてみたいです

それが僕の(絶対に実現させたい)夢です

 

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2026年7月14日火曜日

No.282_質感の良さ


先日、常連のお客様からこんなお話をいただきました

「いろどりこーひーさんの定休日に丁度、コーヒーが切れてしまって...でもどうしても水曜日まで待てなくて、◯◯でコーヒーを買って飲んだんですけど、味はもちろん、質感が全然違っていて...やっぱり、無くなるギリギリじゃなくて、余裕を持っていろどりこーひーさんに来ないとダメだと思いましたよ...」

お客さまから“質感”というお話をいただいたのは、開店以来、初めてでした

いやぁ〜嬉しかったです!

というのも、僕自身毎日焙煎する中で、一番大切にしているものが、この”質感”だからです

とはいえ、コーヒーにおける“質感”を言葉にしてお伝えするのは、とても難しいです

これを敢えて表現してみると、「質感とは、マウスフィールの良さであり、舌触りであり、味わい全体の奥行き感とまとまりからくるボディ感であり、さらには飲み込んだあとまで続く心地良さであり、つまりはコーヒー全体が醸し出す雰囲気みたいなもの...」いやはや、やはり難しいです(^^;;

皆さんは「美味しいコーヒーってどんなコーヒーですか?」と聞かれた時、どのようにお応えになりますか?

飲みやすさ、マイルド感、フルーティーさ、甘み、ビター感、華やかさ、爽やかさ、しっかり感、コク、酸の質、雑味のなさ、クリーンさ、香り、余韻...。これらはそれぞれ大切なことで、美味しさを形作る大切な要素だと思います

その上で、それら全てを包括する美味しさを表現する言葉が、僕は【質感の良さ】だと思っています

焙煎後やブレンドを作る時には、カッピングでその風味をチェックしますが、そのとき僕は、この“質感”というものに特にフォーカスしています。というのも香りや酸味は豆の個性ですが、その個性を支えている土台こそが質感だと考えているからです

質感の良さ】という、共通した土台が出来上がると、あとはそれぞれの豆が持っているポテンシャルが開花して、豆それぞれの個性が“美味しさ”という形で自然に表れてきます

お客さまには、その質感の良さを土台としたコーヒーの中から、それぞれのお好みを見つけていただいたり、その日の気分や暮らしの場面に合わせて飲み分けていただけたらと思っています

そんな姿こそが、僕の理想とする「いろどりこーひーとお客さまで作り上げていくコーヒーライフ」です

実は、この【質感の良さ】という言葉、あるいは状態というものは、あらゆる飲み物、食べ物に通ずる感覚だとも思っています

日本酒、ワイン、ウイスキーにも、そして日本茶にも、紅茶にも、素晴らしく美味しいものと、まあまあのものがありますが、素晴らしく美味しいものには共通して、凛とした【質感の良さ】が備わっています

これはチョコレートや和菓子の餡子、ショートケーキの生クリーム、スポンジであっても、それらで美味しいなぁって感じるもののベースにはやはり【質感の良さ】を感じます

これからも、お客さまが「美味しい」と感じられるその一杯の中に、意識・無意識の違いはあっても、この“質感”をお楽しみいただけるよう、その更なる向上に取り組んでいきます

 

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2026年7月7日火曜日

No.281_焙煎中のUnder Control感


前回のつぶやき『No.280_焙煎後の赤ペンチェック』では、焙煎終了直後に行っていることについて記しましたが、今回は“焙煎中の心持ち”といったお話をしようかと思います

それは「焙煎中こんな作業をしています」という所作の紹介というよりは、「こうありたい」と考えていること、もしくは、感覚の類です

結論を先に言うと、「Under Control感を持ち続けたい」、または「Grip感を持ち続けたい」ということです

一部横文字を使ってしまいましたが、これは何もカッコつけの表現ではなくて(苦笑)、正に“焙煎中の心持ち”を表現している...と、思うからです

これをあえて日本語で表現するなら、Under Controlは、「制御下にある」、Gripは、「しっかり掴んでいる、掌握している」といった感じでしょうか...。ただ、日本語の「制御」だと、なんだか機械を力づくで抑え込んでいるような冷たい印象を感じてしまいます。僕が感じているのは、焙煎機や豆の呼吸とぴったり僕自身が噛み合っているような、そんな感覚なのです

今までのつぶやきの中でも何度かご紹介してきましたが、焙煎中は焙煎記録表を横目に、操作、状況の把握、考察、対処、記録...そんなことをグルグル、目まぐるしく思考を巡らせながら作業を進めていきます

こう書くと、とっても忙(せわ)しない、慌ただしい光景が目に浮かぶでしょうか?

しかし、焙煎中の様子を“動”か、“静”で表現するなら、“静”そのものです

その“静”の内面に流れているのが、「Under Control感」であり、「Grip感」なのです

こうお伝えしても、なかなかイメージし辛いかと思いますので、少しだけ具体的な事象をご紹介してみます

焙煎には目指すべき進捗(窯内温度上昇に関する進捗時間管理)があって、それを実現するためにフェーズごとに火力調整をします。そしてその後の温度上昇の進行が計画通り推移すると、それは「Under Control感の中にいる」となります

ただし、進行にはブレがつきものなので、それに対処するため火力も計画値から微妙に調整をかけていきます。それを思い通りに制御できることが、「Grip感を持って対処できている」状況となります

そしてそれが焙煎全体を通して実現された時、「狙い通りの焙煎」となるのです

「Under Control感」、「Grip感」に満たされた焙煎の結果できたコーヒー豆は、無理な火力操作や慌てた修正が入らないため、豆に余計なストレスも掛からず、毎回(そして1年を通して)変わらぬ風味が実現されます。そして何より、そうしてできた豆は“優しく柔らかい風味”に仕上がります

この“優しく柔らかい風味”こそ、豆種が異なっても共通した、僕がお客さまにお届けしたい風味なのです

焙煎機をコントロールすることは目的ではなく、あくまでも手段です

お客さまの期待を裏切らない一杯をお届けしたい。その思いが、僕にとっての「Under Control感」を追求する原点です

 

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