今回のテーマは「生豆の中の水分を使って水分を抜く」。まったく意味不明なテーマですね(苦笑)
実はこれ、焙煎前半のキモともいえる、僕としてはとても大切にしている考え方なんです
ところで焙煎前の生豆にはおおよそ10〜12%の水分が含まれています(これは豆種によって若干異なります)。そして焙煎によってその多くが蒸発し、焙煎豆では2〜3%程度になります
焙煎は単に豆を焦がしているのではなく、まず豆の中の水分を適度に抜き、その後、糖や有機酸の変化を進め、風味や香りを作り出していく乾熱調理の世界です
今回のテーマからは少し余談になってしまいますが、焙煎して出来上がったコーヒー豆は、その重量が焙煎前(生豆)のおよそ85〜80%になります。このばらつきは、豆種によってその固さ、密度が異なること、焙煎度が異なることによります
そしてその減量要素の多くは、水分蒸発で、他にもチャフ(薄皮)の脱落/揮発性有機化合物の放出/CO₂などガスの発生が関与しています
さて、話を『どうやって水分を抜くか』という本筋に戻します
僕は、生豆投入後から窯内温度160℃前後までを、水分抜きフェーズとして捉えています
ある定めた窯内温度で生豆を投入すると、窯内温度は一気に下がります。やがてその温度下降は平衡状態に達し、窯内温度は一旦底をつき、今度は上昇に転じます。この時の底の温度(最低温度)を“ボトム”と呼んでいます。別の言い方では、“中点(ちゅうてん)”と呼ぶこともあります
英単語のbottomは、「底、一番下の部分」を意味しますが、焙煎においても同じ意味合いで使用します
この状況を身近な例で説明すると、例えば乾麺を茹でるとき。湯がグツグツ沸騰した状態で乾麺を入れると、湯面はさっと穏やかになり、数十秒後、再び沸騰し始めます。この間、湯温は乾麺投入直後にグッと下がり、やがて底をついた後、再び上昇に転じますが、この時の底の温度が“ボトム”です
焙煎ではこの“ボトム”を年中、どの豆種も同じになるよう(ある温度±1℃に収まるよう)に、管理しています
ちなみに店内に保管されている生豆は夏はぬるい状態で、冬は冷え冷えとしています。この温度の異なる生豆を投入して、そのボトムを年中揃えるということは、夏冬で、投入のタイミング(温度)を10℃以上も変えて調整していく必要があります。冬は夏より、10数℃高めの温度で投入するのです。この『季節に合わせた微調整』が、年中変わらない“いつもの味”をお届けするためのポイントの一つです
水分抜きで一番大切なのは、「豆の表層も芯部も均質に水分が抜かれていくこと」です
仮に表層だけカリッと抜けて、芯部に多めの水分が残っていると、後のデベロップフェーズで適正な化学変化は起きません。極端な場合はエグ味さえ発生させますし、そこまでいかなくとも、「明るさが足りない」とか、「重さを感じる」といったネガティブな風味につながってしまいます
一方で水分率ゼロに近付き過ぎると、抽象的な表現ですが「風味が抜けた」と言うような、味気ないコーヒー豆が出来上がってしまいます
均質な水分抜きを達成するには、「どういう温度で、どういう時間をかけるか」がとても重要です
それを適正に行うと、10〜12%の水分を含んだ生豆は、先ずは全体がジワーッと温まりだし、表層から少しずつ水分が抜け始めます。次に芯部の水分は、表層側の少し乾き始めた部分へ移動しながら抜けていきます(これを「水分勾配による拡散現象」といいます)
仮に火力が強過ぎると(または前述のボトムが高止まりすると)、豆の表層が早々にカリッと乾燥して、その部分の熱伝導率が下がるため、そこが断熱層のような働きをして、芯部に熱が伝わりにくくなります。その結果、芯部の水分抜けが悪くなり、前述のネガティブ風味をもたらすことになります
このように豆表層の水分を利用しながら、芯部の水分も適正に抜いていくという意味で、本日のテーマが「生豆の中の水分を使って水分を抜く」となったわけです^^
焙煎中、豆の温度上昇速度(RoR: Rate of Rise)を細かく管理するのは、まさにこの「刻々と変化する豆の水分量と熱伝導率」をコントロールするためです
この水分抜きが上手くいくと、雑味のない、透明感のある、クリーンな味わいの豆が出来上がります。焙煎前半は地味な工程ですが、実は一杯のコーヒーの印象を大きく左右する大切な時間なのです
いろどりこーひーは珈琲豆を通して、皆様の心豊かな暮らしに“彩り”をお届けします
